オートマチックトランスミッション(A/T)には、整備性を向上させるために自己診断機能が備わっています。
この自己診断機能は、「A/Tモードスイッチの”P”表示灯が点滅したら、自己診断機能で故障箇所がわかるので、日産ディーラーに行く前に自分で確認してみよう」という類いのものです。”P”表示灯が点滅していなければ実施する必要はありません。このような機能があるということだけ覚えておき、いざというときに役立ててください。

クルマの取扱説明書には、A/Tモードスイッチの”P”表示灯について次のように書いてあります。
- キースイッチが「ON」のとき、”P”表示灯が約2秒間点灯し、表示灯の球切れを点検します。オートマチックトランスミッションの電子制御システムに異常があるとき、球切れ点検後約8秒間点滅し警告します。
- ”P”表示灯が点滅したときは、日産販売会社で点検を受けてください。
なお”P”表示灯は、A/Tモードスイッチの「パワーインジケータランプ」という呼び方もします。
普通の診断手順
キースイッチを「ON」にすると、”P”表示灯が約2秒間点灯します(図1)。その後、前回の走行時にA/T電子制御システムに異常があったときは、”P”表示灯が約8秒間点滅します(図2)・・・と、ここまでは取扱説明書に書いてありますが、ここからはさらに詳しく書くことにいたします。
キースイッチを「ON」にしたときに”P”表示灯が点灯しなかった場合は、球切れ、配線切れ、A/Tコントロールユニットの異常が考えられます。
前回の走行時に異常を自動的に検出したときに「異常があった」ということが記憶され、次回キースイッチを「ON」にしたときに”P”表示灯の点滅で「前回の走行時に異常を見つけたよ」ということを知らせてくれます。


ここでのポイントは”前回”です。”前回”とは、キースイッチを「ON」にしてから「OFF」にするまでの間です。走行しないでキーだけ「ON」「OFF」させても、”前回”と見なされ、この場合は異常があっても検出されません。
「異常があった」という“記憶”は、一度キースイッチを「ON」にして点滅表示を見ると消えてしまいます。点滅表示をもう一度見ようと思ってキースイッチを一度「OFF」にしてから「ON」にしても見ることはできません。なぜなら、そのキー操作が、次回から見れば”前回”となってしまうからです。
もう一度点滅表示を見るにはある程度走行テストする必要があります。正しく異常を検出させるためには、50km/hくらいまでの車速でスロットル全閉~全開をする必要があります。
自己診断機能の進め方
「『異常があった』という“記憶”は一度見ると消えてしまいますので、もう一度点滅表示を見るにはある程度走行する必要があります」と書きましたが、「どこに異常があったか」という記憶はA/Tコントロールユニットに残されています。こちらの記憶は、過去にA/Tの自己診断機能を実施したあとから現在までのすべての故障情報が記憶されています。
そして、その情報を引き出して見るのがA/Tの自己診断機能なのです。

ここに眠っている故障情報を引き出すのが自己診断機能
暗号操作で開始させる
自己診断機能を開始させるには、次の手順で暗号操作をします。
1.クルマを停止する。
2.キースイッチを「OFF」にする。
3.A/Tモードスイッチを「AUTO」にする。
4.ODスイッチを「ON」にする。
5.A/Tセレクトレバーを「D」にし、ODスイッチを「OFF」にする。
6.キースイッチを「ON」にする(エンジンはかけない)。
7.A/Tセレクトレバーを「2」にし、ODスイッチを「ON」にする。
8.A/Tセレクトレバーを「1」にし、ODスイッチを「OFF」にする。
9.アクセルペダルを約3秒間いっぱいまで踏み込む。
Y31セドリック・グロリア(VG20DET搭載、後期)の世界初、前進5段採用フルレンジ電子制御RE5R01A型A/Tの”3”ポジション搭載車の場合は次の操作とします。
8.A/Tセレクトレバーを「3」にし、ODスイッチを「ON」にする。
9.A/Tセレクトレバーを「2」にし、ODスイッチを「OFF」にする。
以上の暗号操作で自己診断機能が開始され、直ちに結果が表示されます。
注意!
キースイッチを「OFF」にすると自己診断機能は終了しますが、このとき「どこに異常があったか」という記憶は消えてしまいます。
この自己診断機能は、ふつうは日産ディーラーでメカニックが行うものです。大切な過去の故障情報が消える前に、必ず診断結果をメモしておいてください。
自己診断結果の見方
自己診断の結果、A/Tコントロールユニットに「どこに異常があったか」という情報が記憶されていると、A/Tモードスイッチの”P”表示灯で故障部位を知らせます。異常が記憶されていないときは正常時の表示をします。
●正常な点滅の場合

図3のように点滅した場合は正常ですので、キースイッチを「OFF」にして自己診断機能を終了させてください。
●異常な点滅を繰り返す場合

この場合は、自己診断機能は正常に作動しています。点滅のしかたを見て故障部位を調べます。
2.5秒点灯した後、0.1秒点灯、0.9秒消灯の点滅が繰り返されます。点滅する回数は下表の”順序”に対応していて(例えばY31シーマの場合は10回)、故障部位に対応した順番が来たときにやや長めの0.6秒点灯、0.4秒消灯となります。例えばシフトソレノイドBに異常がある場合は、図4の点滅パターンのように5番目の点灯がやや長くなります。
順序 | 故障部位 (点検が必要な場所) |
||
---|---|---|---|
Y31シーマ(前期)・ Y31セド・グロ(前期/後期)4速 |
Y31シーマ(後期) | ||
1 | 車速センサー1(A/T取り付け) | ||
2 | 車速センサー2(メーター取り付け) | ||
3 | スロットルセンサー | ||
4 | シフトソレノイドA | ||
5 | シフトソレノイドB | ||
6 | オーバーランクラッチソレノイド | ||
7 | ロックアップソレノイド | ||
8 | 油温センサーまたはA/Tコントロールユニット電源電圧信号 | ||
9 | エンジン回転信号 | ||
10 | ライン圧ソレノイド | シフトソレノイドC | タービンセンサー |
11 | なし(点滅もなし) | ライン圧ソレノイドまたはドロッピングレジスター |
Y31シーマは後期型からタービンセンサーが採用され、診断項目が追加されました。タービンセンサーに異常が発生した場合は、タービンセンサーのない従来型A/T車と同様にA/Tコントロールユニットが車速センサー1の信号を使って所定条件で計算し、入力軸回転数として制御されます。(2004/11/14追加および表の一部訂正)
8番目が異常点滅した場合は、油温センサーかA/Tコントロールユニット電源電圧信号のどちらが異常なのかを次の要領で調べます。
- A/Tコントロールユニットの端子No.12(後期は端子No.33)(油温センサープラス側入力、緑コード)と端子No.15(後期は端子No.35)(センサー類マイナス側、黄/緑コード)間の電圧を測定し、油温40℃で約1.1Vなら正常、約2.4Vなら異常と判断する。
- A/Tコントロールユニットの端子No.29、端子No.30(後期は端子No.9)(IG電源入力、黄/赤コード)と端子No.31、端子No.32(後期は端子No.15)(アース)間の電圧を測定し、車速約15km/hで走行中に10~15Vなら正常、10V以下なら異常と判断する。
●4Hzの点滅を繰り返す場合

4Hzの点滅とは、1秒間に点灯/消灯を4回繰り返すということです。
この場合は、暗号操作の手順を間違えた可能性がありますので、もう一度暗号操作を行います。何度やってもこの点滅を繰り返す場合は、故障記憶が正常でないため、自己診断は不能です。考えられる主な原因は次のとおりです。
- バッテリーを長時間外した
- バッテリー性能が低下した
- バッテリーを逆接続した
●ランプが点滅しない場合

この場合は自己診断は不能です。点滅しない原因として考えられるのは次のとおりです。
- 暗号操作を間違えた
- インヒビタースイッチの異常
- ODスイッチの異常
- キックダウンスイッチの異常
- スロットルバルブスイッチのアイドルスイッチの異常
- A/Tコントロールユニットの異常
主にスイッチ類が故障すると、暗号操作が適切に行えなくなるため、自己診断機能が開始されず、いつまでたってもランプは点滅しません。
試してみました
エンジンルームにあるスロットルセンサーのコネクタをわざと抜いて故障したようにしてみました。
少し走ってからキースイッチを「OFF」にしてもう一度キースイッチを「ON」にしてみると、”P”表示灯が約2秒点灯後に約8秒間点滅しました。この点滅で、異常が正しく検出されたことがわかります。ただし点滅だけでは「A/Tのどこかに異常があった」というのがわかるだけです。
「どこに異常があったの?」を調べるために、暗号操作をして自己診断機能を開始させてみました。すると約2.5秒点灯した後、パッ、パッ、パー、パッ、パッ、パッ、・・・と、3番目の点灯がやや長くなりました。

これは「異常な点滅を繰り返す場合」項の表から、3番目の故障部位は「スロットルセンサー」であることがわかります。これにより自己診断機能によってスロットルセンサーの異常が正しく認識されたことがわかりました。
補足
加速時など走行中に自動的にパワーモードになったときは”P”表示灯が点灯します。
アクセルペダルをそれほど踏んでいないのに走行中に”P”表示灯が点灯する場合は、エンジン(特にスロットル開度)の異常が考えられます。
ロックアップソレノイドの断線または接触不良によって正しく接続できていない場合は、走行しなくてもキーONにするだけで”P”表示灯が点滅します。この他のコントロールバルブも同じことが言えると思います。
最後に
このような診断機能を活用すると、異常箇所を早く見つけることができて便利です。ただ、異常箇所の点検方法や修理方法は載せていませんので、A/Tのメカは整備工場のメカニックに任せることにしましょう。