公開日:2004年8月16日
最終更新日:2016年5月5日

”新普通車”の検討に入る

開発ストーリー(2)

Development Story

カテゴリー : 基本資料

Y31シーマに適用

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S63年1月、Y31シーマが発売された。国産初の本格的3ナンバー車として人気を誇った。

シーマ現象という言葉が世の中に浸透するほど、高級車市場の影響は大きかった。

これは日産のある男らが巻きおこした反乱から、シーマ誕生までの物語である。

S52年、本格的3ナンバー車の開発構想が持ち上がった

S52 国内市場では従来の3ナンバー車に対する不満が高まりつつあった。日産は3ナンバー専用車プレジデントの他に、S46年に初めてセドリック・グロリアに2600ccエンジンを搭載、さらに50年には新開発の2800ccエンジンを投入するなど、3ナンバー車に力を入れてきた。しかしユーザーからは、「パワーはあるけど外観は5ナンバー車と同じじゃないか」と苦情をぶつけられれていた。

業務部長代理が語る。「日産には3ナンバー専用車としてプレジデントがあったんですが、そろそろモデルチェンジの時期にさしかかっていたんです。一方、北米市場では『シェアを拡大できるクルマが欲しい』といった要望がマーケティング担当者から出てきたんです。そこで、国内と北米の両市場で通用する3ナンバー専用車をつくるべきだ、と考えたというわけです」

だが、開発構想は単なる机上の計画に終わった

S53.12 開発構想は終わった。第2次石油ショックが世界経済を直撃して小型車ブームの再燃が予想されたことと、折から厳しさを増した排ガス規制に対応して公害対策に全力を傾けることが最重要な技術課題とされたためである。
そして再び検討が行われるようになるまでに4年の歳月が経過するのであった。

再び3ナンバー車の開発が検討された

S56.4 3ナンバー車が具体的な検討課題にのぼったのは4月13日の経営会議でのことである。アメリカ日産から強い要望が寄せられたため、経営トップの間で3ナンバー車の開発が検討された。

S57.9 常務会はアメリカ市場向けセドリックの検討を開発グループに指示した。セドリックは翌58年6月、モデルチェンジすることになっており、そのモデルをベースに北米仕様車を開発しよう、というのが日産の狙いであった。

プロジェクトチーム発足

S57.11 北米仕様車の検討に着手してまもなく開かれた経営会議(11月29日)で新しい提案が出された。
「アメリカの3ナンバー車市場に本格的に出て行くのなら、セドリックの改良でお茶を濁すようなことはせず、本格的な3ナンバー車開発をめざすべきではないか」といった意見が出された。この経営会議の意を受けて技術企画室が”新普通車”の検討に入ることになった。そして技術企画室が「本格的な3ナンバー車の市場性は十分にある」という結論を出し、翌58年にプロジェクトチームが発足。メンバーの中にシーマ開発の最終段階まで関与することになる山本と阿波が含まれていた。

プロジェクトチームのリーダーとなった山本は、日産に入ってから一貫して開発・設計畑を歩いてきた。最初はシャシー関係の設計を担当したが、S44年からセドリックを皮切りにクルマのまとめ役に転じ、50年に課長に昇格して車体設計をマネージメントするようになった。さらに56年には新設されたばかりの、開発関係の全体を見るスタッフ部門移り、ここでの最初の仕事が”新普通車”の検討であった。
一方、阿波は、入社して以来、ほぼ一貫して国内営業部門でマーケティングを担当。ディーラーに2回出向して自動車戦争最前線の空気も吸っていた。

新普通車のコンセプトづくりに着手

S58.3 3月7日、山本らプロジェクトチームの面々は箱根に集結した。スタッフに与えられた最初の命題は、”新普通車”のコンセプトづくりであった。山本は言った。「高級車をつくるんだから、われわれ自身が高級な雰囲気に馴染む必要がある」 彼らは、プレジデントやセドリックはもとより、ベンツ、BMW、ジャガー、クラウンなど国内外の代表的な3ナンバー車を持ち込んだ。箱根の山道で徹底的に乗り比べ、コンセプトをまとめることにしたのである。

乗り比べによって得られた感触は、クラウンもセドリックも、西独車に比べて、足回りに難があるという点であった。日本車、とくに高級車は後席重視のつくり方をしており、後席での乗り心地がいいように足回りやシートがやわらかく、いってみればフワフワしたつくりになっていた。「アメリカ車もフワフワしている。似たようなクルマを出して、果たして勝てるか」という疑問を持った。「西独車は、乗り心地や高級感ではフワフワした日本車やアメリカ車に負けているが、足回りがしっかりしているから、スピードを出せば出すほど安定感が高まる感じがする。荒地やカーブでの安定感もいい。北米市場に打って出るには、やはり西独型のシンプルなクルマづくりをめざすべきではないか」という結論に達した。

S58年、日産が初めてつくった高級車コンセプト案

国内 項目 北米
  • 40歳代:成功した商工自営業者、経営者、世帯年収1,000万円以上
属性
  • 40歳代男性:学歴の高い成功したビジネスマン、専門職
  • 職業上、活動、交際の範囲が広い
  • 世間で確立された評価に敏感に追従する
  • ステイタス志向
意識・行動
  • 公私ともに活動、交際の範囲が広い
  • 仕事が生き甲斐であるが、家族との時間も大切にしている
  • 通勤、ビジネス、レジャー(ゴルフ)
用途
  • ビジネス(長距離走行も多い)
  • 価格よりステイタス性重視(クルマは経費で購入できる)
  • 走行、動力性能が優れている
  • 大きくて丈夫
  • 運転操作が楽
  • 乗り心地がよい
クルマに対する考え方
  • ステイタスを誇示できる
  • 信頼できるメカニズム
  • 加速性能が優れている
  • フリーウェイ走行が楽
  • 万一のアクシデントにも安心
豪華感・格調・高性能・快適性・安全性・造りの良さ キーワード 安全性・耐久、信頼性・高性能高級メカニズム・運転操作性、造りの良さ
上記ターゲットユーザーに
  • ハードスケジュールをこなしている「貴方」にゆとりの快適さを!
  • High Performance Exclusive Quality Saloon_!
  • 技術の日産が自信を持って「貴方」のために、社会のために! といえるクルマ
※新普通車車両コンセプト案(S58年5月18日)より
※S58年当時、日産の北米戦略の試金石となるはずであった3ナンバー車は”幻”に終わった。しかし、山本・阿波らが培ったそのコンセプトは新型セド・グロ、さらにはシーマへと受け継がれていった

市場調査実施

S58.5 コンセプト案を叩き台に、日米両国で徹底的な市場調査をやることになった。国内のマーケットリサーチは阿波が担当することになった。
いくつかの問題点が浮かび上がってきた。当然予想されたことだが、クルマのデザイン、サイズが5ナンバー車と同じであることへの不満であった。クラウンもセドリックも、ベースは2000cc車であり、それに2800ccのエンジンを載せただけだから、3ナンバー車のユーザーはステータス性に物足りなさを感じていたのである。この点は、過去のフィールド調査でも常に3ナンバー車ユーザーが抱く不満のトップにあがっていて、トヨタも日産もこの問題の解決に迫られていた。
山本と阿波は、従来の3ナンバー車より一回り大きく、しかも西独車に負けない足回りの”新普通車”を開発すべきだとの結論に達し、報告書をまとめた。

S58.7 まだ正式な開発GOサインは出ていなかったが、デザインもさまざまに検討され、プレジデントやセドリックにこだわらない、斬新なスタイルが考えられていった。

企画室から新普通車の商品企画構想案の提示があり、それを受けて開かれた部長検討会では営業サイドから意見が出された。「新普通車に現在の3ナンバー車ユーザーを吸収する考えだが、セドリックの3ナンバー車を廃止するかどうかの決定は先送りにしたい」意見は承認された。

「セドリックベースの3ナンバー北米仕様車も検討してくれ」

S58.8 厚木の日産テクニカルセンターに男がひょっこり姿を現した。「新普通車だけでなく、セドリックをベースにした3ナンバー北米仕様車のモデルも検討してみてくれんかね」開発担当専務の園田だった。
園田はこのときすでに「プレジデントやセドリックとまったく異なる新普通車を開発するのは、リスクが大きすぎるのではないか」という危惧を抱いていたのである。

「セドリックの3ナンバー車でも十分にいける」アメリカでのリサーチ結果が出たのは8月の後半であった。

この報告を受けて、8月29日に開かれた経営会議は、新普通車の計画については触れず、セドリックをベースにして北米市場のニーズに適合するようなモデルチェンジを図ろうという結論に達した。この結論は直ちに新型セドリック・グロリア開発チームに伝えられ、北米向け仕様の検討に入った。セドリック3ナンバー車輸出計画にGOサインが出たのである。

販売価格は700万円を上回る

S58.9 一方、プロジェクトチームの山本と阿波は、ゼロから新普通車を開発した場合のコストの概算見積もりをしていた。
「こんな高いクルマ、誰が買うんだ」誰もが目を剥いた。アメリカと国内を合わせて1500台売れたとしても、販売価格は700万円を上回るという結果だった。

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