公開日:2018年3月31日

乗り心地がおかしい

減衰力切替モーターの故障2

Failure of damping force switching motor, episode 2

カテゴリー : メンテナンス

E-FPAY31シーマ、E-PAY31セドリック・グロリア
電子制御エアサスペンション装着車)に適用


上のページへ

概要

2015年5月、走行距離36.2万kmの頃、乗り心地がおかしくなったので点検しました。
点検していたら直ってしまいました。

症状

  • エアサススイッチを「SPORTY」にても「NORMAL」にしてもインジケーターは変化するが乗り心地は変化しない(常に「SPORTY」のような乗り心地になる)。

  • エアサスキットの減衰力モニターがキーを「ON」にしただけで「MID」(中間の減衰力)になり、その後は変化しない。フェイルセーフに入って減衰力切り替えの制御が機能停止していると思われる。(中間の減衰力は「MEDIUM」なので、MID表記はMIDDLEの意味か?)

  • エアサスキットのモニターランプが消灯したまま。フェイルセーフに入ってエアバネの制御も機能停止していると思われる。

電子制御エアサスペンションシステムが一旦フェイルセーフに入ると、エンジンを切って駐車中も中間の減衰力(ミディアム)になります。キーを「ON」にするまでリセットされません。
※中間の減衰力(ミディアム)に固定されるため、特に乗り心地が悪いというわけではありません。可もなく不可もないので、エアサスキットに減衰力モニターやモニターランプがなければ気づきにくい症状です。

フィールド技研エアサスキットには減衰力モニターとモニターランプがある。
フェイルセーフに入ると、減衰力モニターは黄色いランプ(MID)が点いたままとなり、モニターランプは点灯しなくなる

原因

ショックアブソーバーの中にある減衰力切替モーターが回りにくくなっているようです。
正常なモーターの回転時の電流は0.2Aくらいですが、回りにくくなっているモーターは0.6Aくらいでした。
回りにくくなると電流が増えて電圧降下が起こるので、さらに回りにくくなっているようでした。
モーターが回らないと、減衰力が切り替わらなくなり、エアサスコントロールユニットが故障と判断し、フェイルセーフでミディアム固定にしてしまいます。

点検

硬さを確認

駐車中(エンジンはかけていない状態)、車体の四隅をそれぞれ下へ押すように揺すってみて、各輪の硬さを確認しました。
フロント左右は同じくらいの硬さでした。リア右は柔らかい気がし、リア左はもっと柔らかい気がしました。
フロントとリアの硬さの違いがあるのは普通です。左右の硬さに違いがある場合は、どちらかに異常があります。今回はリアの左右どちらかが壊れているようです。

音を確認

ショックアブソーバーから聞こえる微かなモーター音を各輪ごとに確認しました。 キーを「ON」にして(エンジンはかけない)から約3.5秒後にショックアブソーバーからジーというモーター音が約0.5秒出ているかどうか聞きます。
音がしなかったリア右が壊れているようでした。
小さな音なので、エンジンをかけたりうるさい場所では、聞こえにくいかもしれません。1カ所でも音がしたら中間の減衰力(ミディアム)に固定されます。この場合は4輪とも音を確認し、音がしなかったところが壊れています。3カ所で音がして1カ所で音がしなかった場合は、そこの1カ所が故障しています。正常な場合は4輪とも音がしません。
次に、リア右のどこが壊れているのか確認していきます。ただの接触不良なのか、断線なのか、詳しく調べました。

センサーを確認

リア右のショックアブソーバー天辺にあるコネクタのところで、ショックアブソーバー側のセンサーの確認をしました。
コネクタを抜いた状態で、赤-緑間の抵抗は∞Ω、緑-青間の抵抗は約4Ω、赤-青間の抵抗は∞Ωでした。つまり減衰力はソフトになっています。普通なら駐車時はハードになっています。フェイルセーフに入ったときはキー「ON」から約3.5秒後はミディアムになっているはずですが、ソフトでした。リア右のコネクタを抜いてからキー「OFF」にしてもソフトでした。つまり、どんな状態であろうとリア右の減衰力がソフトになっています。これで、リア右の減衰力がソフトのまま変化していないことがわかりました。

リアショックアブソーバーのサブハーネス。センサーは青コード、緑コード、赤コードの3本

減衰力を切り替えているのはモーターなので、次にモーターを確認していきます。

モーターを確認

リア右のショックアブソーバーの減衰力切替モーターの抵抗を確認しました。コネクタを抜いた状態で、11Ωでした。この抵抗なら問題なさそうです。テスターのリードを入れ替えても同じでしたので両極性のようです。

次に、減衰力切替モーターに電気が来ているか確認しました。黒コードのアースはほぼ0Ωでした。そして、モーターのプラス側(白コード)の電圧を確認しました。ハードからミディアムに切り替わるときに電圧が出ているはずです。キー「ON」直後に約2.0Vになり、約3.5秒後に0Vになりました。約2.0Vはちょっと低い気がするので、エアサスコントロールユニットの故障か、モーターの負荷が大きくなっていて電圧降下が起きているかのどちらかでしょう。この確認を3回くらいしていたら電圧が出なくなってしまいました。もっと深刻なフェイルセーフに入ってしまったのでしょうか。

リアショックアブソーバーのサブハーネス。モーターのプラスは白コード、モーターのマイナスは黒コード
サンワのアナログテスターCP-7Dによる電圧確認(DC10Vレンジ)。このときはキー「ON」直後は約2.3Vになった

減衰力切替モーターが過負荷になっている可能性もあるので、正常なリア左と比較してみることにしました。リア左のモーターの抵抗は、コネクタを抜いた状態で約8Ωでした。もう一度、リア右の抵抗を測ってみると約8Ωで、リア左と同じになっていました(さっきまでは約11Ωだったのに)。

次に、減衰力がミディアムに切り替わっているか確認しました。キー「ON」で約3.5秒たってもミディアムになりません。つまりハードのままです。ハードなら、もしかして直った?。
もう一度センサーを確認すると、赤-緑間の抵抗は約4Ω、緑-青間の抵抗は∞Ω、赤-青間の抵抗は∞Ωでした。つまりハードです。あれ、直ってる?。
直ったと思いましたが、走り出すとすぐにミディアム固定になってしまいました。

エアサスコントロールユニットの故障か、モーターの故障か、わからない状態が続きます。

もう一度、モーターを確認

日を改めて、再確認しました。抵抗の測定はサンワのアナログテスター153-BX、電圧と電流はサンワのデジタルテスターPC510を使いました。
すべてエンジン停止状態で確認したため、電圧は少し低めです。
キー「ON」時の減衰力切替モーターにかかる電圧を測ってみました。比較のためリアの左右行いました。コネクタは接続した状態です。
リア左は、キー「ON」直後は0V、約3.5秒後に一瞬だけ6V、その後すぐに0V。これは正常そうです。
リア右は、電圧は0Vのまま変化しませんでした。わざとリア左のコネクタを抜いてフェイルセーフに入るようにすると、キー「ON」直後は1.8V、約3.5秒後は0Vになりました。リア右は電圧が低い気がします。

次に、モーターに電源を直結して正常に回転するか確認してみます。回転したかどうかは、ショックアブソーバーの近くでモーターの音で確認します。電源はトランク4P電源コネクタから取りました。
リア左は、モーターの単体抵抗は8Ω。電源直結時の電流は約0.2Aで、安定していました。モーター音も安定していて、きれいな音でした。
リア右は、モーターの単体抵抗は約7.5Ω(どちらの極性でも同じです)。電源直結時の電流は約0.2A~約0.6A間で変化し、安定していません。モーター音はしますが安定していない様子。そのまま30秒くらい回転させた後、逆回転も30秒くらいしてみました。

ショックアブソーバーサブハーネスの角形コネクタ側に電源を直結した
サンワのデジタルテスターPC510で電流を確認。電源直結時は約0.2A~約0.6Aと、安定していない

ここまでで問題なのは、エアサスコントロールユニットからのモーター駆動電圧が低めなのと、ショックアブソーバーの減衰力切替モーターの衰えと思われる2点です。どちらも修理が大変です。エアサスコントロールユニットは取り外すのが面倒ですし、ハンダ補修で直るかどうかもわかりません。もしかすると減衰力切替モーターの故障による過負荷でエアサスコントロールユニット内の部品が逝ってしまったかもしれません。あと、ショックアブソーバーは分解できないので、中の減衰力切替モーターは修理できません。

センサーだけは正常なので、減衰力切替モーターの故障1のときの「ごまかし配線」ができるかどうか考えてみます。
モーターについては、減衰力切替モーターは各輪独立制御なので、左右一緒にはできません。そもそもセンサーの出力の同期が取れないので、電源を一緒に配線することはできません。無理にすると、減衰力(センサー)が意図しない位置で止まり、結果的にまたフェイルセーフに陥ってしまいます。
センサーについては、減衰力切替モーターの故障1のときの「ごまかし配線」でフェイルセーフに入らなくすることはできます。リア右のコネクタは抜いた状態にして、センサーだけリア左と一緒にするのです。この場合、リア右の減衰力は変化しなくなるので、ハードかミディアムかソフトのうち、好みの減衰力で止めておく必要があります。いまのところ、モーターは電源を直結すれば回転するので、この方法ができます。

エアサスコントロールユニットについては、出力電圧が低いので、電圧を増幅させる方法も考えてみます。これが上手くいけば完全に元通りになるかもしれません。そのためにはエアサスコントロールユニットがどのくらいの電圧を出しているか知る必要があります。先に電圧は測りましたが、必要なことは負荷がかかるとどのくらい電圧が下がるかということです。この「負荷」というのは「減衰力切替モーター」のことです。
リア右のモーターがつながっていないときの電圧は、約10.8V。モーターがつながっているときの電圧は、約6.7V。少し差があります。この差が正常の範囲内なのかどうか調べるため、リア左も測りました。
リア左のモーターがつながってないときの電圧は、約10.9V。リア左のモーターがつながっているときの電圧は、約7.3V。ほぼ同じ差でした。このくらいなら問題なさそうです。

残る問題は、減衰力切替モーターが回りにくくなっていることです。これはモーター音で何となくわかります。音が不安定で、回りにくいときは負荷が増えて電流が増し、電圧は約6.7Vよりももっと下がるはずです。そんなときにうまく回転できずにフェイルセーフになってしまうのでしょう。少し電圧増幅すれば解決するかもしれません。家に帰って回路を考えることにしました。その前にエアサスコントロールユニットのコネクタを確認することにした。一応きちんとコネクタは差し込んであって問題はありませんでした。エアサスコントロールユニットのコネクタと、エアサスキットの割り込みハーネスのコネクタの両方を外し、サンハヤトの接点改質剤を塗布しておきました。

走行して確認

走行してみたら正常になっていました。調べているうちに直ってしまったようです。
原因は、減衰力切替モーターの衰えと思われます。固着のような状態になると常にフェイルセーフに入りますが、回りにくくなっているだけなら、正常になることもあるようです。
調べているうちに直った?と思うようなことがあるのは、気まぐれに回るからです。
ここまでの確認で一番効果があったのは、減衰力切替モーターに電源を直結してみたことです。正回転も逆回転もしばらく回し続けたので、回りやすくなったようです。特に逆回転は通常では有り得ない動作なので、これが効いたのでしょう。

修理

修理はしていません。上記の点検をしていたら直ってしまいました。
減衰力切替モーターに電源を直結して、正回転と逆回転をすると改善することがわかりました。ただし、モーターが固着している場合は電流が多くなるため、サブハーネスの細いコードが焼き切れる可能性があり、注意が必要です。

無接点リレーハーネス

電源を直結すると正常に動くことがあるので、リレーハーネスを作ってみました。
減衰力は走行中に頻繁に切り替わる物なので、リレーは、機械式ではなく、音のしない電子式にしました。
基板は、まったく別の用途で作ったプリント基板を利用。ハーネスは中古の物を使いました。
これで正常に動くようになりました。

減衰力切替モーター無接点リレーハーネス(自作)。
これをショックアブソーバーのサブハーネスと入れ替えるだけでモーターが回りやすくなった
減衰力切替モーター無接点リレーハーネス(自作)を設置

しばらくして、この無接点リレーハーネスを使わなくても正常に動くようになっていたので、使うのをやめました。

上のページへ